【要旨】
当該活動地域には2260世帯の団地があり、高齢化率は約46%と健康問題が山積となっている。そこで訪問看護ステーションが中心となり、地域の健康問題を解決するために【まちの保健室】を開設している。活動は個別相談・コミュニティ作り・健康に関するイベントを通じて看護を行い、同時にボランティアの周知活動を行った。結果、訪問看護ステーションが運営する【まちの保健室】は地域住民の健康を守る場となり、住民が地域の為に活動する場となっている。看護は病気の人だけでなく、地域の健康を担う役割が求められていることを実践で認識した。今後は、他地域にも広げられる機会を提供したい。
【取り組みの目的と方法】
まちの保健室は、横浜市青葉区すすき野と川崎市麻生区虹ヶ丘の中心に位置し、高齢化率が約46%と高い地域で健康問題を抱えている。「近所の方が認知症のようだが、どうしたら良いか?」「知り合いが会うたびに歩けなくなっている」等の住民声や、道路でしゃがみ込む人、突然死で警察が来ている光景を頻繁に見かける。そこには看護の必要性があっても「看護は病気の人だけしか受けられない」という誤った社会の認識(図1参照)と、地域に向けての看護を提供する場がないのが現状である。そこで、地域住民が手軽に看護サービスを受けられるために、地域で活動する訪問看護ステーションがまちの保健室を立上げ、下記活動を行った。
- 個別相談
看護師と直接相談できる日や電話窓口を設けた。健康問題に対しては生活指導を行い、
予防や健康増進に関しては各種サービスや専門家への橋渡しを行った。
- 健康イベントを通じての情報提供
体操教室や椅子ヨガ等直接健康増進に役立つものや、うたの会・スマホ教室・遺言セミナー等生活に関するイベントを開催した。そこで健康に関する情報提供(脱水予防・便秘・尿漏れ・災害時の備え等)を行い疾病予防の取り組みをする。また企業や団体・大学と連携し、運動促進システム開発や健康測定会等も行った。
- コミュニティ作り
健康増進や疾病予防にはコミュニティ形成が必要である。サークル活動や各種イベント後の茶話会を催し、認知症に焦点をあてた【認知症カフェ】では、当事者のケア・家族介護・予防の看護を提供した。
- 地域住民の運営参画(ボランティア募集活動)
役割を持つことが健康増進に繋がり疾病予防になる考えから、地域新聞やホームページ・SNS・まちの保健室チラシや地域住民を対象とした講演でボランティア募集をした。
【現状の成果と考察】
1年間の参加延べ人数は1324人と昨年より約20%参加者が増加した。「まちの保健室で相談したら良いよ」と聞き訪れる方が増え、住民に浸透してきたことを実感する。また「腰の痛みがなくなった」「安心して最期まで住み続けられる」「ここに来ると笑うことができる」等、健康増進に繋がる結果も聞かれる。ボランティアは8名(含看護師2名)まで増え、地域住民同士で助け合う力が健康作りに寄与している。訪問看護ステーションがまちの保健室を運営することは、地域を移動しながら見守っている効果もある。住民に声掛け、健康増進のためにまちの保健室に繋いでいる。又、訪問看護を利用し大切な家族を看取り残された家族には、まちの保健室でボランティアを勧めることでグリーフケアを継続している。改めて、ICNの定義(図1)にある看護の役割を、まちの保健室と訪問看護共同で実践することの効果を、活動から見出した。
【今後の展望】
まちの保健と訪問看護の看護サービスを「ゆりかごから墓場まで」と捉え、地域住民が「看護が欲しい」と思った時に看護を使える(買える)サービスとしたい。それには、訪問看護と保健室をセットとした運営拡大が必要だが、同じ看護サービスでも【まちの保健室】は制度化がされていないことで経済的負担が大きい。今後は看護師が行う【まちの保健室】の意義を踏まえ、経済的支援や制度改革に問いかけていきたい。