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日本看護協会出版会【コミュニティケア】連載職員が辞めない組織をつくる!を開始しましたので、ブログにてご紹介をしていきます。
(コミュニティケア2022年9月号より転機)

ハラスメントから職員を守るために
 
 利用者・家族からパワーハラスメントやセクシュアルハラスメント(以下:ハラスメント)を受けたときに、それを管理者や同僚に訴えてよいのか悩む職員は少なくありません。図11)は、管理者が利用者等からの暴力をどう捉えているかを示したもので、多くの管理者が職員を守ろうという意識のあることがうかがえます。ところが、管理者がこうしたハラスメントに気づいていない、あるいは気づいていながら目を背けていると、職員が離職したりステーションが訴えられたりすることがあります。
 2018 年度の調査2)では、85.5%の医療機関で看護職から、患者・家族によるハラスメントの報告があげられていました。私自身、この結果に衝撃を受けました。ハラスメントは大きな事件に発展する可能性があります。実際、2019年には利用者が訪問看護師に睡眠薬のようなものを飲ませてわいせつな行為をしたという卑劣な事件が、2022 年には利用者の家族が往診医を銃殺するという凄惨な事件が起きました。
 管理者の中には、ハラスメント対策として何から始めたらよいのか悩んでしまう人がいるかもしれませんが、解決策の1つとして挙げられるのが
「ハラスメント対策マニュアル」(以下:マニュアル)の策定です。筆者はこれまで多くの施設でマニュアルの策定を支援し、成果を出してきました。マニュアルを策定し、うまく活用するために大切なのが、「ハラスメントの定義の共通理解」「職員・利用者の意識改革」「ハラスメントが起きたときのシミュレーション」です。なお、マニュアルは、全国訪問看護事業協会のウェブサイト*で公開されています。これを基に自ステーションの状況に合わせてカスタマイズし、策定するとよいでしょう。また、立案したマニュアルは定期的に見直すことも大切です。

“定義”の共通理解をはかる

 まずは、ステーション内でハラスメントの定義の共通理解をはかりましょう。職員との間でこの認識にズレがあると、職員皆が連携してハラスメントの対策をとることができません。
 そもそもハラスメントとは、相手の意に沿わない言葉や行動によって不快な思いをさせてしまうことなどを指します。たとえ行為者にそのつもりがなくても、相手が「傷ついた」と感じればハラスメントと認定されます。
筆者の若いころは、ハラスメントを受けても泣き寝入りするのが当然といった雰囲気があり
ました。そうした時代を過ごしてきた人は、ハラスメントを受けた職員に「そんなのは大したことではない」「最近の若者は忍耐がない」などと思ってしまいがちですが、それでは問題が解決しません。こうした職員には、正しい認識を持ってもらうことが重要です。
 次に、ハラスメントの定義と対応に関する認識を紹介します。


新人看護師(Aさん):
 「私がケアをするたびに、利用者さんが体を触ってくるので困っています……。」

先輩看護師(Bさん):
 「Aさんは好かれたのね。利用者さんも寂しいのよ。」

 この例では、AさんはBさんに「利用者がなぜ触ってくるのか」ではなく「どのように対応したらよいのか」について相談しているにもかかわらず、Bさんは軽く受け流しています。Bさんの返答を聞いたAさんは「我慢するしかない」と思ってしまうでしょう。Bさんの言動は、ハラスメントを正しく理解していないだけでなく、ハラスメントには職場全体で対応すべきという認識がないことの表れです。

職員・利用者の意識改革

 マニュアルを策立しただけではハラスメントを防止することはできません。職員および利用者の意識改革も重要です。ポイントは、次の2つです。

ポイント1:職員の意識改革
 マニュアルを周知徹底するため、職員に「ハラスメントの防止・対策に努める」旨の宣言をしてもらいます(入職者の場合は雇用契約の締結時)。同時に、ステーション内にハラスメント対策委員会や、報告・相談窓口を設置するなど、職員全員をハラスメントから守るための環境づくりをします。
 また、職員1人ひとりがハラスメントに関する知識を深め、予防法と対応策を学べる環境を整備するために、ステーション内で随時、研修を行います。その際に、特におすすめなのが、職員が持ち回りで講義することです。自身が講義をすることで、ハラスメントに関する抽象的な概念も具体化します。

ポイント2:利用者の意識改革 
 利用者の意識改革も重要です。訪問看護サービスの利用契約の際に、「当ステーションは、暴言・暴力は絶対に許さない」という方針を明確に伝えましょう。多くのステーションは、「利用者を信用していないように思われるから」などの理由で契約書に記載するに留め、言葉では強調していません。しかし、最初に明確に伝えておけば、後にトラブルがあったときに「先ほどの〇〇〇〇という言葉は、契約時に説明した“暴言”に当たります」と伝えることができ、それで問題が解決する場合もあります。
 なお、伝える際のポイントは、ポスターやパンフレット等を用いて、どのような言動がハラスメントに該当するのかを具体的に説明することです。きちんと説明し文書に残すことは、利用者に「それはハラスメントである」と納得してもらうための根拠となります。
 ハラスメントは、「問題が起きてから対策する」のでは、根本的な解決にはなりません。最も大切なのは“予防”です。訪問先にハラスメントの予兆がある場合は、複数人での訪問、もしくは職員から丁寧に事実確認をするなど早急な事前対策が必要です。ハラスメント対策は、職員を守るだけでなく、利用者にとってもサービスの継続や円滑な利用につながる重要な対策といえます。

ハラスメントが起きたときのシミュレーション

マニュアルを定めていても、行動できなければ意味がありません。あらかじめ、職員の身の守り方、利用者への説明方法、相談者等を明確にします。参考までに、ハラスメント対策フロー(図3)を示します。これらのシミュレーションを行っておくと、実際にハラスメントが起きたときに、スタッフや報告を受けた人はどのように対応すればよいのかなどがわかり、スムーズに対応できます。
 筆者はこれまで、問題が起きて大変な苦労をしたステーションをいくつも見てきました。大きな問題に発展していないからよい、という認識は捨て、何か思い当たることがあれば、その芽が小さいうちに問題を解決しておきましょう。

●引用・参考文献
1)一般社団法人全国訪問看護事業協会:平成29年度・平成30年度全国訪問看護事業協会研究事業 訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業 報告書,p.10,
https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/h30-2.pdf[2022.7.7確認]
2)三木明子:厚生労働省行政推進調査事業費補助金(厚生労働科学特別研究事業)総括研究報告書 看護職等が受ける暴力・ハラスメントに対する実態調査と対応策検討に向けた
研究, p.3,https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/
files/2019/191031/201906002A_upload/201906002A0003.pdf[2022.7.7確認]
3)前掲1),p.9

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