訪問看護は「孤独な仕事」と言われ、1人で行動することが多い業種です。それゆえ、過剰に孤独を感じてしまうことがあり、退職へつながることがあります。しかし、事業所で孤独を生み出さない工夫をすれば、退職率を下げることができます。
訪問看護という仕事は、特殊性に加え、感染対策により食事は一人で食べたり、直行直帰で事業所内の会話は最低限となっています。そんな環境にスタッフは「孤独」を感じているのです。孤独を感じている人は当たり前ですが、職場に仲間や居場所がないと感じています。そのため、退職へと転げ落ちてしまう可能性が非常に高い状態にあります。
それだけではありません。例えば、「聞きたいことがあるのに、周りのスタッフは訪問に出ていて話すことができない」という職員の声を聞いたことがありませんか?
この発言を正面から受け止めると、何か仕事で知りたいことがあるのだろうと上司は思うかも知れません。だから、マニュアルを渡すなどの問題と判断されるかもしれません。しかし、根幹にある問題は「孤独」なのです。そこを見極めないと、大変なことになります。
それでは、職場の具体的な会話を細かく分析してみましょう。
次に紹介するような発言を、新人職員がした場合、あなたはどうしますか?
「この職場は、何も教えてもくれない」
「教えてくれないのなら、責任が持てなくて怖くて訪問に行けません」
「感情でしか動かない職場なんですね」
「前の職場では○○だったのにこの職場では」
こういった話を聞いた時に、感情が先に立ち「最近の新人は・・・」というような、イライラするような気持ちになってしまう人もいるのではないでしょうか?そうなってしまうと、その時点で、この新人職員を受け入れようという気持ちがストップされてしまいます。前の職場できちんとやっていた新人職員にとっては、この言葉を発するには正当な理由があると思っています。そこをしっかりと把握するべきです。
そのためにも、チームの「心理的安全性」について理解しておいたほうが良いと思います。
良いチームには「心理的安全性」が欠かせないと言われています。*¹
「心理的安全性」とはメンバー1人ひとりが安心して、自分らしくそのチームで働けることです。「自分らしく働く」とは自己認識・自己開示・自己表現ができることです。つまり安心してなんでも言い合えるチームが必要なのです。心理的安全性がある場合、ない場合で、どんな循環が起きるのか比較してみましょう。
心理的安全性が欠ける場合
「自己表現ができない→頼られない→チームを信頼できない→仕事に意味を持てない→社会的インパクトの低下」とネガティブな循環が生まれる
心理的安全性がある場合
「安心して何でも言える→互いを頼る→チーム全体を信頼する→もっといい仕事をしようと思う→世の中にいい影響を与える」とポジティブな循環が生まれる
先程の職員と話をすると「自分は認められていない」「任せられない」と感じており「このままではこの職場で続けられないかも・・」と不安を抱いていたのです。
これはまさしく、心理的安全性が欠けていた状況でした。
新しい職場に希望と夢を持ってきた看護師は、職場に対し「長く働きたい」「役に立ちたい」と思っているのです。スタッフが発する言葉や考え方を否定すべきではありません。何故、そういった発言するのか?と、本心を聞き出すことが非常に重要です。それを繰り返えし行うことで、何でも言い合える職場環境、つまり承認された人間関係を構築することがポイントなのです。
それでは、今回のコラムでは、そういった何でも言い合える職場環境を作るために必要なことを3つのポイントにまとめてご紹介します。
①コミュニケーション時間の強制確保
訪問看護という仕事は、スタッフ全員が集まることが容易ではありません。いざ全員で会議をしたいと思っても、腰を据えて話すことが難しく、全体でコミュニケーションをとるには意図的な時間作りが必要です。
方法としては、訪問看護の1件の時間を全体のコミュニケーションにあてるために確保すべきです。そうなると、「1件ぶんの収益が減るためできません」という事業者の方がいます。確かに、収益は一時的に減りますが、コミュニケーションを優先させるべきです。なぜなら、周知徹底や考えを吐きだす場がなく、孤独が理由となって退職者を出す方がよほど収益は下がるからです。
具体的には、例えば5人のステーションで週に1回ミーテイング日を設けると1日の損失は約18万円(単価9,000円×5人×4週で計算)で、年間では216万の損失です。一方で退職者が1名でると、退職者の1ヶ月分は有休消化で給与発生し35万の人件費が必要です。また退職者の穴を埋めるために新規採用ことになり、これも非常に高額です。まず、120万の人材派遣会社へ支払いが必要になり、新人がフルで働けるようになるまでの機会損失費用も加わり、1人の退職者が出るたびに、新たに計245万ほどの出費が必要になります。これは、あくまでも年間1名の退職者で計算していますので、2名以上の退職者が出た1名あたり約200万ずつの損失となる訳です。
単純に計算すれば分かることなのですが、職員の孤独感を減らすためのコミュニケーションコストをケチったことにより、大損してしまうという状態を引き起こしています。
②承認し合う習慣つくり
訪問看護という仕事は孤独であるため、スタッフは常に承認に枯渇している状況だと思ってください。病院でスタッフを指導していた以上に、部下や仲間が互いに承認し合う必要があるのです。それをするために行うべきことは、同じチームとしての仲間・同士として認め合い、それを言葉にすることです。
具体的には、仲間の良い所を1日1回以上言葉として出し褒める行動を起こしてください。とても単純なことですが、褒められることから承認は始まるのです。これをやってくださいと言うと、「褒めるところがない」と言い出す職員もいますが、良い所は誰しも持っています。ですので、「相手を固定観念でフィルターをかけてあなた自身の目線で見ないように」と相手の良い面に気付く訓練をさせてあげてください。毎日言葉にしていると、意識せずとも一日に何回も言葉として出てくるようになります。管理者であれば自ら率先して、職場全体であれば「褒め月間」等イベントやゲーム感覚で取り組むのも良いです。
また、承認し合った人間関係は、お互いを褒めるだけは成り立ちません。お互いを注意する時なども、お互いを認めあった状態で決して人格否定をしないことが重要です。そういった「相手を否定しない」で、注意する方法を覚えましょう。
カウンセラーのテクニックですがPNP方式をご存知でしょうか?P=ポジティブ・N=ネガティブを表します。PNPの順番で話す、つまり先ず「良い点を褒める」次に「悪いところを指摘する」最後に「良い点を褒める」という伝え方です。
PNP方式の会話 具体例
×「この報告書では相手に伝わらないのでもう一度出しなおして下さい」
P:「報告書をこんな短期間でよくまとめてくれましたね」
N:「それで、ここの表現なんだけど、昨日のバイタルや家族の反応があるともっと伝わりやすくなると思うので追加してもらえるかな?」
P:他の部分はとても良くまとまっていたので大丈夫ですよ、ここだけ手直しお願いね」
とこんな感じで注意されたら、否定にはならないと思います。PNP方式は事業所全体で習得すると良いでしょう。
こういうことを習慣化した場合、管理者に対して何か言いにくいことでも、職員はざっくばらんに話をしてくれることがあります。
私自身の経験を振り返っても、管理者として言葉が足りなかった時に、スタッフが否定ではなく「横山さんの今の話しは主語がないですよ~(笑)」と自分では気が付かないことを助言してくれたことは、本当に嬉しく良い関係が築けたと思いました。
③質問力=聞く力(うつわ)
最後は聞く力です。話す側は、掘り下げればとても複雑な背景があるようなことを、一言で伝えてしまうことがあります。それなのに、聞く側はその一言で全てを把握したと判断しがちです。それが故、間違って理解され「否定」と受け取られることも多々あるのです。
おそらく、利用者の方に対しては、聞く力を発揮されている方も多いと思います。例えば、利用者の方から「薬を飲みたくない」と聞いたら、看護師の皆さんはどう対応していますか?
先生に報告する前に「何故薬を飲みたくないのか?」と聞いたりしませんか?薬の形状、副作用、量、飲むタイミング、飲み込みの感触の問題なのかなど、どこに飲みたくない理由があるのか、質問を繰り返して正しく本音にたどり着こうと努力すると思います。
しかし、これが対職員となった場合、身内という甘えなのか、とたんに職員同士の質問力が低下してしまいます。本来、職員の方々は十分な質問力を持っているので、組織内のコミュニケーションにおいても「何故?」を繰り返して本音にたどり着く習慣を構築すべきでしょう。
訪問看護に限らず、一般的に日本人の退職の理由の第一位と言われているのが人間関係です。筆者も人間関係で悩む時期がありました。しかし、互いを認め合い、それを言葉するという習慣を自ら率先して作っていたところ、チームの雰囲気が一気に変わりました。それを今でも鮮明に思い出します。
今回は孤独によって退職する職員を減らす方法にについて書いてきました。職場の立場はスタッフ・管理者問わず、自らが歩み寄らないと互いを知り合うことはできません。同じ志を持って働いている者同士を知ることがチーム作りの大きな一歩となるのです。
*¹ピョートル著:最高のチームGoogle流最少の人数で最大の成果を生み出す方法より
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