採用した人が定着しないというのが、訪問看護ステーションを運営する上で、最も難しい問題の一つです。管理者の方が「訪問看護師の求人を出しても応募がない」「採用しても長続きしない」と言っているのを、この業界にいれば1度は聞いたことがあるはずです。その大きな原因としてあげられるのが、通常よりも高い採用費が発生する人材派遣会社に頼り、効率よく求人広告を運用できていないことです。その対策としては、独自に人が集まる仕組みを作っておくことで、より人材を定着させることが重要なのです。
まずは、なぜ多くの事業所が人材派遣会社に頼り、求人広告に経費が掛かりすぎているのかを考えてみましょう。それは管理者の知識不足です。人材派遣会社を使うのはマージンをあわせた人件費が高額なわりに、ステーションに必要な人材が本当に確保できるとも限らずリスクが高いと言えます。また、広告会社の営業マンのオススメ通りに採用広告を打っていては、なかなか安定した経営はできません。そうしていたら、大手でも経営が苦しくなることもあるほどです。
それは、具体的に、採用広告にいくらかかるのかを見てみればすぐに分かります。人材紹介会社経由で1名採用すると約112万(年収560万と仮定し20%)かかり、紹介料が経営を圧迫し黒字化までに2年かかると言われています*1。こんなに採算を取るのに時間がかかるのに、短期で辞められてしまえば、経営を圧迫するのは言うまでもありません。採用にかける経費と時間が少ない小規模な事業所が多い訪問看護業界は、求人広告に頼りすぎないように注意しなければなりません。
では、どうすればよいのかというと、できるだけ少ない予算で求人広告を運営し、長く働いてくれるナースを確保するということにつきます。ですから、管理者はなぜ、ナースが短期間でやめてしまうのかに対して、普段から、かなり敏感になっていなければなりません。
あらゆる退職はケースバイケースに見えがちですが、短期でナースが辞めてしまう原因を傾向として掴むと、想像していたこととのギャップがあるからと言えます。ですから、そのギャップを埋める作業をしてあげれば、長期で働いてくれるナースを独自に集める仕組みを構築できるのです。
それに必要になってくるのが、以下で説明する、4つのポイントとなります。今回は、Yes/Noのチェックリストを用意してみましたので、読者のみなさまの施設の求人について考えてみて下さい。
①自社理念の確認をしよう
・日頃の業務と理念が結びついている □Yes / □No
・理念を定着させる努力をしている □Yes / □No
普段の施設運営が、採用に大きな影響を与えます。ですから、この理念に関する部分でNoが多かった場合は、次のように施設運営を見直してみましょう。もし、理念はお飾りになっていて、誰も理念を見ていないような職場はとてもマズイといえます。まず、理念を浸透させるには、「理念に基づいて考えたら・・」と声に出すことが重要です。また、理念は困った時程活用するものとして、思考をするときの軸にするように心がけましょう。もし、上記ができない時は、皆がわかりやすく作り直すことも重要です。
②理念にふさわしいペルソナ*2を考える
・施設の理念に合致する看護師を採用するよう心がけている □Yes / □No
・ペルソナが存在する場所への募集方法を常に考えてる □Yes / □No
広告代理店の営業マンは、ここまでは考えてくれません。だから、施設の担当者がトレンドを研究しながら採用する必要があります。施設のカラーが違えば、看護師に求められる仕事への思い・地域・家族背景・年齢・雰囲気などは、全く変わってきます。例えば、筆者の訪問看護ステーション理念は『種をみつけ、種を蒔き、種を育む』です。種とは、共に働く職員・利用者・地域を指し、どんなに小さくてもあらゆる可能性を持つ種を花咲かせる(実現させる)ためには・・と考えられています。特に地域を大切にしているため、理念に合致した地元の人材を採用するために、タウン誌での求人広告に力を入れています。実際、この地元にこだわった募集により6名の応募があり3名を採用することができました。その他、若い方を採用することが理念に沿うという施設であれば、SNS広告を活用した求人など、さまざまな工夫をされるべきでしょう。
③理念に沿った活動を求職者に知ってもらう
・研修開催やブログ、SNS、HP、ラジオ出演等で活動を見える化させている
□Yes / □No
・就職説明会の開催している □Yes / □No
・採用面談を複数回している □Yes / □No
・本採用の前に現場同行させている □Yes / □No
理念を対外的に発信することは、人材確保以上の効果もあります。なぜなら、理念に沿った内容の文章をSNSなどに投稿することで、理念がより浸透します。加えて、誰かから理念に関する質問を受ければブラッシュアップされる機会となります。自分の頭の中だけで、より良い理念を作ろうと努力するよりも、たった1問の質問を受ける方が理念をよりよいものに変える力を持っています。その繰り返しの結果、就職説明会の時は、理念の共有、チームワーク、教育システム、一日の流れ、雇用形態、求める姿等をきちんと管理者がシンプルに説明できるようになるのです。そうなることで、より正確に共有してもらえる方に応募してもらうことが可能となります。
ついでですが、面接は複数人で行い、複数回実施することが重要です。応募者との間に、話のズレがないかを必ず確認するようにしましょう。その上で、サービス現場での対応を実際に確認し、社会性、マナー、コミュニケーション、看護の考えかたを確認することが大切です。
④理念に合わない人材を採用しない工夫
・悩みと目指す姿が、事業所で叶えられる人物か確認している □Yes / □No
・面接官の1人でも懸念を示した人物を採用しないようにしている □Yes / □No
長期的に働いてくれる人材を確保するためには、候補者が自分の将来についての考えを聞いておく必要があります。やはり、自分が働く職場では、自分の目指す人物になれないと感じてしまえば、退職につながっていまいます。ですから、将来に対するビジョンにおいても、求職者と施設のミスマッチがないように注意しましょう。条件と合わなければ、断る勇気を持つことです。それを怠ってしまうと、お金も労力も無駄になってしまいます。
4つのポイントを踏まえて採用した、理念に合致した人物を採用したからといって、それで終わりではありません。最後にもう1つ、大変重要なことがあります。それは、採用後の半年間に限り、徹底的なサポートをすることです。
入社後、半年間というのは、様々な壁を感じるものです。みなさんも、働き始めた頃、次のような壁を感じたことはありませんでしたか?
・スタッフの一員となり相談・意見を言えるまでの壁
・1日、1週間、1ヶ月の流れを把握するまでの壁
・時間管理をしながら一人で訪問に行き、看護展開ができるまでの壁
・夜間を含めた緊急対応ができるまでの壁
これらステップを上がることで自身と訪問看護の楽しさを経験してゆく。だからこそ指導にかける時間を考慮するべきです。延々とサポートし続けるのも経営体力的にも厳しいですから、まずは半年間、みっちりサポートすることをおすすめします。そして、その後は、何かトラブルが発生したときに、親身できめ細かく職員にサポートすることが重要です。
筆者はこのポイントを抑えるまでは、職員の退職が判明してから募集をかけ、人が来るか来ないかハラハラしていました。しかし、このポイントを抑えることで、コストは当時の10分の1に減りました。また、長期的に働いてくれる人材が確保できれば、ステーションの質・運営・経営において圧倒的に強くなることができます。なぜなら、長期間働けないと知識や経験の継続ができないからです。ですから、短期で辞めてしまう職員ばかりでは、サービスの質低下・利用者満足度の低下・多職種からの信頼度の低下につながってしまいます。最後に、感覚的なお話になりますが、理念が共有できていて目指すべき方向が一緒で、チーム作りができると、組織の一体感を如実に感じるものです。そういった感覚を持てない施設は、採用を計画的に行う事を改めて考えてみてはいかがでしょうか。
*1 渡邉尚之:㈱日本看護協会出版会 コミュニティケア「訪問看護ステーションの経営戦略」(連載25回、2020年6月臨 時増刊号)
*2 ペルソナとは・・・対象者について年齢、性別、家族構成、居住地、職業、年収、趣味、価値観、休日の過 ごし方など詳細な情報を設定して具体像を作り上げるマーケティング手法
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